竪穴のまわりへその姿を現わさなかった。あの様子でみれば、研究というのは本当だったのか。柱穴が幾つあるとか、溝がどうのと、物見を立てて写真をとったりする、それだけのことで格別の魂胆もなかったのか。そんなことを考え考え、煙管をかみながら猛之介が苗畑を見まわったりしているとき、昭和合金の敷地へは、別の見物人があらわれた。噂をききつたえた附近の小学生たちがかたまって、トタン塀の外から、何処から入れるんだい? あっちだよ、あっちに門があるんだよ、などという声々を響かせながら入って来た。いつも、大抵は男の子たちで、やや暫く黙って井上たちのすることを眺めていてから、ぽつり、ぽつり、それ何だろ、というような質問をはじめる。
 井上は、小学生の見物があらわれると親しい調子で、皆、勝手に掘ったりしちゃいけないよ、と先ず警告を与えてから、いろいろ説明してやった。こんな皿は、こわれ易いんだからね。まだ上薬がかかってないだろ。大昔の皿はみんなこんなのさ。工業はまだすすんでいなかった証拠だよ。
 一旦見てしまうと堪能すると見えて、同じ子供がくりかえして来るということは稀である。なかに一人、鞄をどこかへおいてから又
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