やじさん達の生活の根本問題と全くつながった線にあることが理解されるだろう。民主戦線という言葉がいたるところに言われている。学生が学生だけで、工場に働く人が工場に働く人だけで固まって、そこだけで解決出来ないほど今日の日本の問題は大きく広い。そして根本的である。村と都会とはお互いの困難を分け持っているし、その自然の解決は双方の協力なしには決して実現しない。青年の賃金の低さは婦人の賃金が騰《あが》る時でなければ決して騰らないし、民法の上で女が独立の権利を持たないうちは、一家の中で長男だけが持っている特権と負担とは解決しない。人民の利害はこのようにして、人口の九割九分までを包括している。そしてほんの一握りの権力と金力とを持った支配者に向って立っている。この社会の土台がどこにあるか。三角というものは尖った小さい先で立っているか、それとも一番線の長い広いところを土台として立っているか。三角を尖った先で立てることは人間が二つの手の上でさか立ちすることよりも困難である。社会の三角の力強い底辺である人民が、どうして自分達の幸福のために努力しないでいられよう。その底辺の一番重心である青年がどんな理由があって歴史の創り手であるという光栄を捨てるべきだろう。
 選挙が迫って来ている。若い人々の一票はその人々が真実どんな生活を欲しているかということを物語るものだと思う。何故なら今や日本の社会は、少くとも私達の要求をまっすぐに反映しなければならないというところまでは民主化の方向をとって来ているのであるから。自分が何を欲しているか、それをはっきり知ることこそ大切であると思う。老獪な支配者達が私達の心に残っている旧い考え方を足場としてまた再び彼等の横暴を返り咲かせないように、私達は生きることこそ欲しておれ、彼等のために侮辱的な毎日をひきずって行くことは御免であるという事実を知らせなければならないと思う。[#地付き]〔一九四六年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「青年文化」
   1946(昭和21)年5月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
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