ややかなおもさでいつもゆるんだような形になり、その二人の体つきがその髪のくずれにふさわしくて、特別な味わいがあるのであった。夢二の描く若い女の髪かたちを髣髴させたが、叱られたり、睨まれたりするのはそれが夢二に似ているからではなくて、丁度その頃、私たちの崇拝をあつめていた一人の若い長身の女の先生の髪が、そのような形をしているから、というのが原因であった。二人の睨まれるのは、時もあろうに音楽の時間であり、ひともあろうに音楽の先生からであった。赤い綾木綿を張ったベンチにズラリとかける。先生はピアノの前にいられる。それから挨拶のためのコードが弾かれるまでの一分間。紫紬の羽織を着た先生の目が席を一わたり見まわすとき、いつもそこには何ともいえないいやな息苦しいような沈黙と緊張があるのであった。そのままピアノが鳴り出せば、ほっとして発声の練習に入るのであったが、さもないときは、焦立たしさを仄めかした眉目の表情と声の抑揚とで、その生徒の名がよばれ、その髪はもうすこし何とかならないんですか、といわれるのであった。
二人の生徒のその髪がどうにもならないように、その長身の先生を崇拝する心持も、どうしようも
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