生態の流行
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)谺《こだま》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)生態[#「生態」に傍点]ばやりで、
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二ヵ月ばかり前の或る日、神田の大書店の新刊書台のあたりを歩いていたら、ふと「学生の生態」という本が眼に映った。おや、生態[#「生態」に傍点]ばやりで、こんなジャーナリスティックな模倣があらわれていると半ば苦笑の心持もあってその本を手にとってみたら、それはどこかの場当りなブック・メイカアがこしらえているものではなくて、官立大学の学生主事をしている人が、そういう職名もちゃんと肩書きに明記して著している本であった。
このことは、忘れることの出来ない印象となって今日も私の心にのこされている。学生主事という仕事が本来どういう立て前で設けられているのかよくわからないが、ともかく学生生活の各面に接触をもつべき立場なのだろう。従って「結婚の生態」が現代らしい一つの流行を示していることも、元より知られていただろう。この種の著書の題に、その通俗な流行作品の字をそのままもって来て使う神経というものは
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