云われたということをきいた。安倍さんという人は漱石門下の一人で、昔は「大思想家の人生観」というしごく尨大でわかりにくい本の翻訳などもやり、今なお老いて若い心があって、青年の大先輩として思いやりのあるひとの一人であろう。友情に慰安を求めよ、と云う言葉のなかに若い胸にふれて来る暖かさがあるだろうと思える。友情にしろ人間成長の過程では実に波瀾のあるもので、直接に生活態度を反映する点では恋愛とひとしい。その人それぞれの人となりや好みや属している社会の圏やそれらの境遇上の条件に対するそのひとの態度などというものを綜合的に反映しているものである。友情に慰安を求め得るために、人は先ず信頼に足る人物でなければならず、理解力のひろく明るい精神のもちぬしでなければならず同情という能力をもたなければならない。わからないところはどこまでもわからして行こうとする真摯な真面目さをもった人間でなければ、決して永続性のある成長のためのよろこびと協力とにみちた友情は持ってゆけっこないのである。そのこともやはり恋愛の真髄にふれている。
安倍さんの言葉は、或る価値をもってある種の青年の心をめざましたろう。大学というところ
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