典をよむと、わたしたちは、それらの作品の多くが、予想されるよりもはるかに多く、青年の人間形成の問題をテーマとしていることにびっくりすると思う。
だれでも思い出す「若きウェルテルの悩み」をはじめ、ヘッセの傑作も「轍の下」「青春彷徨」などは直接青年の自己確立の過程、人間の目ざめの若々しくゆたかな苦悩を描いている。ロマン・ローランの「ジャン・クリストフ」もそういう文学として世界にあまり類のない作品である。ルナールの「にんじん」の主人公は少年であるけれども、どうしてあの小説が既成の社会通念――大人の世界のものの考えかたの俗悪な形式主義への抗議でないといえよう。
デュガールの「チボー家の人々」が、一九三〇年代より四〇年代の若い人々にとって、特に意味をもっているわけは、この長篇小説の作者が、主人公ジャックの成長して行った当時のフランスの中流社会の生活ぶり、その気分を客観的にとらえていると同時に第一次大戦前後の社会的状勢も客観的な歴史の眼で描きだそうとしているところにある。デュガールよりも以前のヨーロッパの諸作家たちはそれぞれすぐれた才能を傾注しながらも、「轍の下」にしても「青春彷徨」にしても、
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