質を生かさないでよい。そのような判断そのもののうちにわたしたちの人間的、社会的自我の課題、その自主性と発展の契機がひそんでいる。
「わたしたちは、やっと青春をとり戻したばかりだ。この上、戦争は欲しない。」若い人々は、まず基本的命題としてこの自主的発言をした上できょう日本の新聞に溢れている戦争挑発の記事をよむべきで、しかもそれは全世界の青年男女の発言である、平和要求の発言を自身に向ってもはっきりとした上で、キリストへの信仰をもつものならその実践について語るのが正直な人間的自己をもつもののすることであると思う。キリスト教は唯物論によって脅かされているのではない。日本ではキリスト信者が戦争を阻止しなかった事実によってゆらいでいるのである。今日、聖母マリアの信仰を美しい言葉で語る人がいる。しかし現代の世紀にピエタのマリアでないほかのマリアがどこの世界にあり得るだろうか。ピエタのマリアを死と破壊の肯定者としてはミケランジェロも描かなかった。
[#地付き]〔一九四八年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:「関西学院新聞」
   1948(昭和23)年5月15日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
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