い仕事にとりかかっちゃいないことをよく知っている。国家計画部が先に立って、先ず一年三百六十五日を一番生産のために有効に使うにはどうしたらいいかということを考えた。一年には五十二日日曜日がある、十三日いろんな宗教的な祭日がある。祭日の前の早じまいまであって、これまでは一年に七十三日から七十九日、工場と役所で仕事が止った。こんな不経済をやめて、交代に五日目ごとに一日の休日をとって本当にプロレタリアートの、記念日だけ休んで働くことにした。
 ――わかった。それで例えばこの赤ボッチが、また五日目についてるわけだな。間四日が働く日か。成程順ぐり緑や黄色がやっぱり五日目ごとにある。
 ――ここを見ろ。
 ――五月一日、二日。ははあ! やってるな、二日続いた一般の祭日か。
 ――そいからこれを見ろ。
 ――ふん。革命記念日二日。それからこれは何だい? ああレーニンの記念日か!
 ――ところで、どうだい、十二月三十一日、一月一日、何かあるかい!
 ――緑と黄色のボッチだけだ。――じゃ何だな、大晦日も元日もソヴェト同盟じゃ平日なんだね。
 ――その緑のボッチの番のものが三十一日に、黄ボッチが一日に休むだけだ。工場や役所じゃほかの番の者がどしどし働いてるんだ。プロレタリアートのほんとうの一月の記念日は一日じゃない、九日にやるんだ。
 ――はっきりしてら! 全く元旦だなんて、搾取国のプロレタリアートにとって目出度《めでたく》もへったくれもないわけだ。闘争の新年度第一日ってもんだ。
 ――ソヴェト同盟に正月ってもののないの分ったろ。
 ――分った。従って女子供が特別なことをやるってこともないわけさね。
 ――女だって、生産単位としてソヴェトでは男とすっかり同じだ。同じ労働は同じ賃銀を払われる。五日週間で働いてる。元旦だって平日だ。番に当った者だけが休む。特別なことは何にもない。ただ、大晦日の晩、労働者クラブで何か催しがある。芝居とか、キノとか、音楽とか、一家揃ってそこへ行って、暖い、明るい、楽しい年越しするわけさ。
 ――ねえ、オイ! ソヴェトの労働者っていうと、その話だけでも、どうも偉くがっしりしてやがるみたいだが、そいでもいつかヘベレケになることもあるのか?
 ――モスクワへ行ったばかりの時分は、よくウォツカの瓶握ってひょろついてる奴を見たもんだ。焼酎みたいなものなんだから、迚もまわる
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