人の肉体のために野天と日光がたっぷりあるというだけがとりえのものではないだろうか。底を見ると社会的に不健康なものがあるのではなかろうか。
時間の不経済な点もあって、私共の間にはもう疾《と》うから、都会生活復帰説が持ち上っている。私共のような知識階級の貧者、同時に生活の愛好者には都会が住みよいことを発見した。そこで生れ育った人間には理屈以外都会に牽きつけられる本能があることをも感じる。――
それやこれや貸家物色中だが、今一番困ることは、家の寒いことだ。田舎らしく天井がそれはそれは高い。周囲ががらんとしている。そこへ寒い冬の空気が何と意気揚々充満することか! 冬の始め、寒さの威脅を感じ、私共は一つの小さい石油ストーブを買った。夜など部屋から部屋へ移る時、それを点し、提灯がわりにもして下げて行く。石油ストーブというものは、然し、何だか侘しい性質のものだ。点けると当座はぽーっと直ぐ部屋が暖まる。少しいい心持になって、さて消すと、それぎりほとぼりというものがない。すーっと、空気が自ら冷めて、元のつめたさに戻ってしまう。スタンダアドの石油ストーブは、チャスタアという名の石油だけを好む。スタンダアドが日本の会社でないように、チャスターは新潟からは産出しない。石油だけで部屋をあたためていようとすると一人で四罐のチャスターが入用だ。友達と私と、うちは二人で一つずつの部屋を持っている故、月に八罐のチャスターがいったとしたら、その始末は誰がしてくれるであろう。私共は、財布に合わせて大きすぎる独立心を持っているから、そのように石油はつかわない。炭で間に合わせるのだ。
私の部屋は南向きだが、非常に寒い。椽がなく、障子一つで外気を防いでいるためだろう。日本の障子の風情を愛すのはピエル・ロティとヨネ・野口に止まらぬ。けれども寒いので私は風邪をひいた。一日、ホット・レモンを飲んで床についたが、無惨に高い天井を眺めているうちに思ったことがある。それは、雑誌のことで、雑誌も、正月の『婦人公論』についてである。
初め、女流百人百題という題を見、ジャアナリズムを感じただけであった。順ぐり読むうちに、そうばかりも云えぬ気がして来た。兎に角ここには、これだけ現代女性の云うこと、思うこと、欲すること――あらゆる角度に於て内外の生活に連関した発露がある。筆者の態度が大体極めて粗笨であり、一時的であり、編輯
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