ると思う。けれども、そのように弱くもあり百年も生きない一人一人の人間の生命と生活というものに、どんなかくされた蓄積と期待すべき未来までへの可能が蔵されているかということについて、おどろきを新にする感動は、割合忘られがちなのではないだろうか。自分のうちにそのような可能を発見しそれを信じ、その実現のために最大の骨折りを惜しまず生きとおす者は、それは人類のなかの人類、人間の中の人間であるということを、明瞭に知って自分の生活の感情としようとしているひとは、果して何人あるだろうか。
 女は昔からよく大地に譬《たと》えられて来ている。それは、女が母となって人間の世代を絶やさぬ豊かな土壌であるというところから云われるのであろうし、また、大地は一応うけ身におかれているということからでもあるだろう。大地の歴史は、人間の出現とその人間たちの大地への働きかけが始まった日から始まるのであるから。
 昨日から今日を生きて明日を生む歴史の担いてとして、女はこれまで随分生物的にばかりその任務を果してきたと思う。人間のこの社会への誕生は偶然であるがやがてその存在の価値は必然にかわってゆくという意味ふかい歴史の発展への
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