輻輳している危険、混乱、厄災が全く未曾有のものであるのは、科学が人間に曾てなかった暴力を与えているからであると同時に、「恐れを知らぬ思想、徹底的に透明な陳述、および徹底的に批判された立案という科学的方法は科学の力を統制する希望をも人間に与える。」のである。執筆された時期からいって、この文化史は当然今日の第二次世界大戦の複雑な進行状態にはふれていない。慶応書房版ヴァルガの「第二次世界大戦の性格」は、立体的にリアルに今日の動きの諸条件と方向とを説明している。
 この頃はヒトラーの「我が闘争」が一種の流行本となって、英雄崇拝的文化の感情を満足させているらしいけれども、あらゆる時代、何事かを為す一個の人の力は、実に複雑な歴史の動きに内外から影響され、それに影響するものとして現われるのであるから、さきにあげたような読書を背景として、この英雄的自意識のつよい一個の人の著作も読まれなければ意味ないと思う。女は英雄が好きという古来の皮肉は、女が自立的な人物評価の力を持たないことを語っているものであり、同時に歴史的に人の動きを把握する力を持たなかった今日までの文化の低さへの諷刺である。
 ウエルズの文化
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