それを堅持させるように努力することしかない。国連憲章は第二条第四項で、領土保全と政治的独立に対して武力をもって脅威することを禁じている。第七項にその国の内政に干渉する権能を国連に与えてはならないという条項が厳存している。わたしたち日本の婦人は、どういう戦争にも日本人民として「使用」されることを断る権利をもっている。日本と米国そのものが人民の平和より何より先に戦略的な地点として考えられるような考えかたに麻痺させられず、世界の軍備縮少を要求しアジアにおいてそれを実現させる力となって行かなければならないと思う。
 去年もおしつまった十二月四日から一週間日本でも世界人権宣言第二周年の記念週間がもたれた。十二月五日『東京新聞』に総司令部の人権擁護班長ガートスタイナー氏が人権宣言の趣旨について語っていた。「人権とは政治的自由だけを指すものではなく、さらに働く権利、社会保障をうける権利、相当な生活水準を維持する権利などの社会的経済的諸権利をも含むもので」「戦争の災禍が骨身に徹しており、かつ個人の精神的物質的幸福を無視することが、どのような結果をもたらすかを十分経験した日本人は、これらの熱望に共感するであろう」と。わたしたちはこの言葉を、生活の実際について理解し、平和について語り、平和のためにする行動を、犯罪めかして宣伝しはじめた日本の軍国主義者に、平和を求める人民のゆるがない意志を示してゆくべき時になっている。日本は占領下にある。占領下の人民の最も深い人類に対するモラルは何であろうか。それは自分の経験しつつある生活の悲劇を、ふたたび他の民族の上にもたらす役に使用されることは決してしないということである。
[#地付き]〔一九五一年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「婦人民主新聞」
   1951(昭和26)年1月1日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
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