。フィリッピンその他の諸民族が受けた惨虐は、日本にこれほどどっさりの未亡人をこしらえた、その軍事権力の仕業であることを知ったのである。
 これらの事実をしみじみととりあげた上で、未亡人という三つの文字を考えるとき、現代の歴史の中で、未亡人の問題は、これまでとまるでちがった重大で深刻な創造的な意味をもって浮び上って来る。今日の、未亡人の問題は国際的である。しかも、民主精神が、世界にあまねきものとなって来た現世紀の発展の過程で、その犠牲として生じた世界の未亡人たち、孤独にされて生きてのこった母なる妻たちは、よるべない境遇以上の生存の意義をもって、明日に向って発言しようとしているのである。

 昔、三宅やす子という文筆家があった。理学博士の夫人であったが、良人の死後、自分が未亡人という名で扱われることに抗議して未亡人論を書いた。封建のしきたりによって、社会的に活動しようとする婦人まで、良人の死後は「未だ亡くならない人」という観念で見ることの不自然さをついたのであった。
 今日、二十代の女性で良人を喪った人は決してすくなくないと思う。結婚後一週間で良人が出征し殺された人々さえ少くないと思う。そ
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