た。当時の権力者たちは、自分らでまきおこした大惨禍を、国民が反省し、考察し、批判して是非を論じることを極端におそれた。そういうものを一括して、スパイと思わせた。道理に立つ足場が弱かったから、それだけ人間の理性の明るさを恐怖した。ある婦人雑誌などはその一頁ごとに、洋鬼を殺せ、とおそろしい文字を刷った雑誌を、おとなしい家庭的な日本の妻たちの手もとにおくったのであった。
条理に立つ判断を人民の精神の中から追いはらい、追いはらえないものならば、出来るだけそれを封じこめて、目かくしをされた家畜のように戦争に狩りたててゆくために、日本の法律は、全く恥というものを知らない行動をした。日本の治安維持法が昭和三年に制定されて、昨二十年の秋廃止されるまでの十七年間に、ものを考え、日本の未来について憂慮する人々を約十万人も投獄した。幾人もの人が獄中、獄外で殺された。治安維持法が廃止された去年の秋、その法律の犠牲になった人々は、民衆の解放のための英雄として、新しく見なおされた。先頃上映されていた「命ある限り」という映画は通俗化されながらも、これまでひたかくされていたこれらの事情をいくらかは人々に会得させたの
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