服も着かねるような状態におかれたのであった。日本のつつましい女性は、ほとんど全部が海の彼方の生活は知らず、地名もなじみない彼方に遠く、手紙さえ書けず、はかなく愛するものを死なした。
すこし深めて、第二次世界戦争のいきさつを眺めてみると、私たちを非常におどろかせる事実がある。それは、今回のナチズム・ファシズム対民主精神の大戦争では、戦争による未亡人というものが、決して直接、職場で戦死した良人たちの妻ばかりではないということである。
二十五年の年月は第一次大戦と第二次大戦の闘争の方法をすっかり変化させた。戦線は飛行機の快速力とともに拡がった。すべての交戦国にとって銃後というものは存在しなくなった。戦災という言葉は戦争によってひきおこされた輪の外での災難を意味してつかわれているようだけれども、そして、なにか附随的な現象であり、それは、のがれたものとのがれられなかったものとは本人たちの運、不運にかかわることのようにうけとられているが、それは間違っている。戦災は、現代戦争の方法がああいうものである以上、戦争の輪の中において考えられるべきことである。より遠い前線というちがいしかなかった。世界は
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