かうような派手な口調で、
「杉ちゃんは、グレゴリー夫人みたいな仕事がしたいんですって」
と、紹介した。杉子は思わず赧くなって、
「いやだわ、そんな。私そんなこと云ったことないじゃないの」
 むきに否定した。雪枝はグレゴリー夫人のことも日本のこともよく知らないからこそそんなことが軽々しく云えるのだ。杉子はそう思った。女で劇を書いて生活してゆくことさえ日本ではむずかしくて、杉子の学校の先輩の一人は、永年戯曲を書いていたのに、近頃思いがけないところで通俗小説をのせているのを見た。
 その晩、却ってそんな話をさけて、スポーツマンである雪枝の夫の好みらしい学生っぽい陽気な大騒ぎをして遊んだ。
 伊田も気取らない気質で、大豆を奪い合う「豚」という遊びの時なんか「おい、駄目だ駄目だ、ひどいよ」と、どら声をあげて、雪枝の夫にくみついたりした。
 伊田のグループに杉子が加ったのはそれから二月ほどあとのことであった。
 芝居好きということでは、母の毬子もまたその母親からうけついだ趣味をもっていて、弁護士であった杉子たちの父が十年ほど前に亡くなってからは、毬子は娘たちなんか誘って、地味にしかし自由にいろんな
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