というものは早く帰るもんだよ。おっ母さんが心配するよ」
 杉子は急な腹立ちがこみあげて来て、我知らずそこへ立ちどまった。この伯父は、自分が腹を立てて顔を赧らめているのさえ妙な風にとるのだろう。
「伯父様御心配いらないのよ。母さん御存じなんですから」
 若々しい憤慨が瞳に燃え立った。伯父の顔の上にぶつけるような気で、杉子は突嗟《とっさ》に伊田を紹介しようと思った。
「御紹介するわ」
 杉子はくるりと歩道の上で伊田を顧みた。伊田はそこにいるものとばかり思った。杉子の心持からすれば、当然いるべき筈であった。
 ところが、いつの間にか伊田の姿はそのあたりから消えて、鋭い動作でふり向いたはずみに杉子の靴がぶつかったのをふっとした一瞥で四十がらみの勤人風の男がせわしなく通りすぎて行った。見ると、伊田はずっとずっと先の駅の入口のところに佇んでこちらを見ている。
 杉子の視線につれて其方を見た兼吉は何故か急に、
「まあ、いい、いい」
と、声を低くした。
「じゃ、また、いずれ」
 ステッキを大きくついて歩み去った。
 杉子ものろのろ歩き出した。折から、夜学へ向う学生服の一群がどっとはき出されて来て、兼吉
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