っくりするだろう。試験のとき教えっこしたりするのはわるいこと、だから決してしてはならないこと。結婚する迄好きなことを勉強するのは悪いことでないけれど、結婚したらいつとなしにそんなことも忘れてしまって一生暮して不思議とも考えないこと。それらは何の疑いもなく、この小皺のたたまれた一応は賢い額の奥に伝統の場所を得て納められているのだ。
「ねえ、かあさん」
 杉子は、そーっと母の顎のあたりを撫でながら、あらわし尽せない感慨をこめて云った。
「ねえ、かあさんは、きっとずいぶんハイカラな女学生だったんでしょうねえ」
 毬子は、
「ふ、ふ」
と笑った。
「西洋人の先生何て呼んだの、マリって云った? それともメアリって云った?」
「そりゃ、ミス・セタって呼んだのさ」
 この母が、杉子の今心に思っていることをすっかり知ったら何と云うだろう。
 今度の事件から、杉子は紀子のように自分に絶望した考えかたをひき出して来ていなかった。一層身にひきしめて、生きてゆく目標をもつということの大切さをさとった。学校がつまらないということでは皆始終云っていることだけれど、それならば次の日から行くのをやめるかと云えば、そん
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