ちから恥辱を撥《は》ねかえそうとするような暗さを醸し出している。ふっくりした手先を机にふれさせながら立っている杉子の頭の中に、その時高く響くような調子で「いずれを義《ただし》とするや」という文句がはっきりきこえた。行為のきれいさ、きたなさとはどういうことを云うのだろう。
杉子のその疑問が別の声となって溢れたように、
「先生」と、立っている群の中から池田紀子がよびかけた。
「私たち、よくなかったと思いますけれど、決していやな動機でしたことではなかったと思います」
「それはそうでしょう。二年御一緒に勉強して来て、あなた方がそんな卑劣だとは私にとても思えません」
そのことで沈痛さは軽くされない語調で津本先生は、考え考え答えた。
「けれどもね、もし岡先生が教室にいらしても、あなたがたは同じことをなすったでしょうか。ようくそこのところを考えて下さい。――本当に、どうしてこんなことになったでしょう」
昏迷のまま、その日は定刻に皆帰った。翌朝学校へ出て、杉子はこの事件が未解決のまま心理的に一層複雑なものとなっているのを感じた。ほかのクラスへそのことが学校として前例ないこととしていつの間にかもう
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