杉子
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)帛紗《ふくさ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)二三歩|跟《つ》いて来たと思うと

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)仔猫[#「猫」は底本では「描」と誤植]
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 ふた足み足階段を下りかけたところへ、日曜日の割合閑散なプラットフォームの日光をふるわすような勢で下りの山の手が突進して来た。柔かな緑色の服の裾だのいくらか栗色っぽいゆたかな髪の毛だのを自分の躯がおこす風でうしろへ生々と吹きなびかせながら、杉子は矢のように段々を駈け下り、真先の車へ乗ろうとした。が、近づいた一瞥でドアのそばに酔っ払いの顔を見つけると、そのまま若い娘の敏捷さでそこをかけぬけ、自動扉へ本能的な片手をかけて抑えながら次の車へのりこんだ。
 同時に動き出して、杉子はほっとすると一緒に、あらとおかしそうな眼色を輝かした。左の手首へかけていた帛紗《ふくさ》の包が駈け出した拍子にひとまわりして、あぶなくなかみがはみ出しそうになっているのであった。それはお煎餠で、姉の糸子が、
「ここまで
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