までをわかち合う仲間としての友情は生じにくかった。
 もうこれからは、どこの図書館でも、婦人閲覧室というものは無くなってゆくだろう。云ってみれば、社会の全面から、そういう差別を無くしたい気持に燃えている、女の人たちの集りが、最後の婦人閲覧室から生れたことは面白く思われる。
 この頃の上野の山はこわい東京の中でもこわいところの一つとなった。初冬の落日は早くて、五時すぎると上野の森に夕靄がかかりはじめた。西空にうすら明りはあるのに、もう美術学校の黄櫨《はじ》の梢は、紅を闇に沈めてただ濃く黒いかげと見えるばかりである。婦人閲覧人たちは、殆どみんなこの時刻に帰り仕度をはじめた。わたしも、ふろしき包から下駄を出して、正面の段々をのぼり切ったところで穿きかえた。
[#地付き]〔一九四七年三月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「文芸」
   1947(昭和22)年3月号
入力:柴田卓治

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