に血のぬくもりと、折れども折れぬ民衆の生活力と、学問ならざる愛すべき人間叡智とを感じ直しているように思える。「人に依頼する者と人から掠奪する者のみが所謂風俗習慣を遵守し得る」親愛の情をもって、作者は春桃の生活態度を肯定している。ひとが何と云ったってかまわないし、妙なことを云えば、ねじこんでやればいい、という春桃の頸骨のつよさは、中国独特の肌理《きめ》のこまかい、髪の黒い、しなやかな姿のうちにつつまれている。
パール・バックは、中国の庶民の女の生きる力のつよさ、殆ど毅然たる勇猛心を実によく感得した。それら中国の妻たち、母たちは、高い身分から低い身分の女に到るまで、親愛と敬歎をもって描かれている。しかし、文学というものの微妙さ、民族性というものは、云うに云えなく興味ふかい。パール・バックの筆は沈着、精密、精彩をもっているけれども、そして時に偉大に近いけれども、落華生が「春桃」一篇に漂わしている中国のうっすり黄色い、柔かい滑らかな靭《つよ》さは、パール・バックの生れつきの皮膚とはちがった手ざわりをもっている。
封建の伝統をもたない国の女性であるパール・バックが中国の婦人のおどろくべき強靭
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