企計を持ったに違いないことを、夫人の平然さで裏書きされたように、思わずにはいられないのである。
六
まるで、ぷすぷすと燃え上らずに煙を吐くような焦躁に、胸一杯を窒らせながら、正隆は翌朝学校に出掛けた。
出掛けて見ると、正隆は、自分の顔を見る総ての者共は、今朝は、殊更、変な意味ありげな眼付をすることに気が附いた。
それ等の眼は、一つ洩さず、彼の姿を見付けた拍子に、
「おや! いるな」
という表情を浮べて、さも面白そうにパッと拡がる。それから或る者は、詰らなそうな鼻声で、
「フム、まだ元の通りかい」
と呟きながら、一寸、目配ばせをする。が、或る者は、何か、ひどく馬鹿にしたような、不平な表情を浮べて、肩を怒らせながら、拳を突出すような、素振りをする、心持がある。正隆の眼から見ると、皆が皆、昨夜のことを知っていて、知っている癖にまた皆が皆、知らん顔を装って、ペッと地面に唾を吐いているように思われるのである。
彼は、誰の顔を見ても、擲《ぶ》ちたいような衝動を感じた。誰の眼を見ても、小突きたかった。自分の心持を、自分でも恐しくなって、暫くすると、正隆は何という当もなく、
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