正隆の持前である優柔不断というよりは、寧ろ、ぐっと居直って、胡座《あぐら》を掻いたような一種の意固地が、彼を、恐ろしい搾木に縛りつけてしまったのである。
そして、その意固地を掻き立てたものは、内攻に内攻を重ねた、彼の不安や焦躁の凝り固りである。
時が経るに連れて、人と人との相対的な、複雑な、微妙な、流転する心の折衝に疲れ切った正隆は、極度の困憊から、終に、あらゆる不幸は、皆、何人かの憎くも企図して置いた、一種の悪計によって齎されたものであると、確信するようになってしまったのである。床柱も、畳も、程よく寂びた離座敷にポツネンと坐りながら、正隆は、よく、その見えない敵に向って呪咀を投げた。
第一、正隆にとっては、このことの起りからが、疑問になって来た。これほど、言葉の不自由な、封建的な地方へ、何故、何の予備智識も持たない自分が、投げ込まれたのだろう。困るのは、解りきったことではないか。
その困るのを見て、皆が内心では侮蔑しながら、軽視し、邪魔物扱いにしながら、表面だけは、どこまでも、親切そうな、好意を持った仲間らしく扮《よそお》っている。それのみか、普通、こんな状態になれば、当然、
前へ
次へ
全138ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング