秋毛
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)病《や》みあがり
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病《や》みあがりの髪《かみ》は妙にねばりが強くなって、何《なん》ぞと云ってはすぐこんぐらかる。
昨日、気分が悪くてとかさなかったので今日は泣く様な思いをする。
櫛《くし》の歯《は》が引っかかる処を少し力《ちから》を入れて引くとゾロゾロゾロゾロと細い髪《かみ》が抜けて来る。
三度目位までは櫛一杯に抜毛がついて来る。
袖屏風の陰で抜毛のついた櫛を握ってヨロヨロと立ちあがる抜《ぬ》け上《あが》った「お岩」の凄い顔を思い出す。
只さえ秋毛は抜ける上《うえ》に、夏中の病気の名残と又今度の名残で倍も倍も抜けて仕舞う。
いくら、ぞんざいにあつかって居るからってやっぱり惜しい気がする。
惜しいと思う気持が段々妙に淋しい心になって来る。
細《こま》かい「ふけ」が浮いた抜毛のかたまりが古新聞の上にころがって、時々吹く風に一二本の毛が上の方へ踊り上ったり靡いたりして居る様子はこの上
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