さかえに引き入れられる。
口に表わされない心の喜びを感じる。
彼の水の様な家々の屋根に星のまたたき、月の光までさして、カサ……カサ……折々落葉する。
土虫がジジジー、かすかに泣いて居る。
私の頭も手足も正面《まとも》に月の光りに照らされて凍《い》てついた様にそこのそこまで白く見える。
私は自分を、静かな夜の中に昔栄えた廃園に、足を草に抱かれて立つ名工の手になった立像の様にも思い、
この霧もこの月も又この星の光りさえも、此の中に私と云うものが一人居るばっかりにつくりなされたものの様にも思う。
身は霧の中にただよい、心は想いの中を流れる。
銀の霧 月の黄金
その中に再び我名を呼ばれるまで私は想いの国の女王である。
底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日初版発行
※1914(大正3)年11月1日執筆の習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制
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