をたてて居る。
ジジー! ベルがなる。
私は玄関に飛び出す。
見るとS子ばかりじゃあなく、T子もA子も来た。
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「さあ早く御上んなさい。
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と云うとT子が時間がおそいからと云って私と二言三言云ったなり一人で先へ帰って仕舞った。
何だか馬鹿された様で止めもしなかった。
S子は私がたのんどいたものをわざわざ持って来て呉れた。
三十分ばかり話して、一寸私の書斎をのぞいて人に届けてもらいたいものをあずけると二人ともすぐ帰って仕舞った。
段々せわしくなって来たんだから無理もないけれ共何てせいて帰った事だろうと、書斎にぽつんと座って飾った美くしい人形を見ながら思う。
あれじゃあ、何のために此処を飾ったんだかわけがわからない。
腹立たしい気持ちにもなるけれ共まあ一寸でも見せてやったからと思えば幾分か、あきらめもつく。
彼の人達が来る前よりも私はくしゃくしゃして来た。
飾ったものなんかさっさと仕舞い込んで仕舞う。
気晴しにマンドリンを弾く。
左の第二指に出来た水ぶくれが痛んで音を出し辛《にく》い。
すぐやめて仕舞う。
西洋葵《せいようあおい》に水をやって、コスモスの咲き切ったのを少し切る。
花弁のかげに青虫《あおむし》がたかって居た。
気味が悪いから鶏に投げてやると黄いコーチンが一口でたべて仕舞う。
又する事がなくなると、気がイライラして来る。
隣りの子供が三人|大立廻《おおだちまわ》りをして声をそろえて泣き出す。
私も一緒《いっしょ》にああやって泣きたい。
声を出そうかと思って口をあく、――あきは開いても、
何ぼ何でも、
と思うと出かけた声も喉深《のどふか》くひっ込《こ》んで仕舞う。
風がサアーッと吹くとブルブルッと身ぶるいの出るほど寒い。熱が出ると悪いと思って家へ入る。
それでもまだ寒い。
かんしゃくが起る。
秋風が身にしみる。「ああああ夜になるのかなあ」と思うと急にあたりに気を配る――午後六時。
底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
1981(昭和56)年12月25日初版
1986(昭和61)年3月20日第5刷
初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
1981(昭和56)年12月25日初版
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年1
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