さんがどんなに身体がわるいかということは誰も知らなかった。あんまり譲原さんが汗をかくので、わたしもその時の担当者であった江上さんも心配になって、いきなりではあんまり無理らしいからと、四、五日さきに録音をのばした。わたしたちは皆単に、譲原さんはひどく疲れている上に馴れない、放送局のなかは不自然に暖かいからそれでそんなに汗がでるのだろうと思っていた。わたしも羽織をぬぐほどその狭くるしい放送室は、あつくて息苦しかったから。二人で往来へ出て、田村町の停留場のところでちょっと立ち話した。譲原さんは、やっと汗のおさまった顔をして、今度は放送の日までに一遍わたしのところへ来て、打合せをしておこうという話になった。
うちへ来てくれた日は、寒い日だったけれども、譲原さんはやっぱり小鼻に汗を出していた。その時もわたしは、譲原さんの病気がどんなに悪いかは知らなかった。譲原さんは自分の病気のことをちょっと話して、何しろ少しでも栄養をとろうと思えば、住む場所をえらぶゆとりがなくなるから、今いる田村町のアパートも身体にわるい条件なのは分っているけれども、なかなか動けないといった。それを譲原さんは、あっさりとした
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