て来るので、此方の端のは、止り木の上で片脚を幼く踏張り、頸を曲げて身を支えている。それでもかなわなくなれば、構わない。彼はさっと立って頭の上から真中に割り込み、また自分で、ツツ、ツツと仲間の方によって行くのである。――
私共の家にいる文鳥は、名こそ文鳥だけれども、どうも、「彼岸過迄、四篇」の文鳥とは、たちが異うように思われる。漱石先生の心が華奢であったのか、私の見る文鳥は、決してあれほど、ろうたくはない。こまやかな銀灰色の体がぽってりと大らかで、白い頬、黒い頭、薄紅の嘴などは、あでやかな桃の咲く頃を想わせる。春の鳥という心がする。けれども、狙いをつけていざ飛ぼうなどとする時、翼を引緊めた姿を横から見ると、大きい肉色の嘴は、何という毒々しく、猛々しく感じられることだろう……
――いつか四辺がひっそりとなった。小鳥はもう囀らない。はしばしがとけ、土にくまどられた雪の上に、二条三条、鋭い金の西日が止まっている。
[#地付き]〔一九二二年四月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「明星」第6号
1922(大正11)年4月1日発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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