D・H・ローレンスは、彼を知っているすべての人が語っているとおり、特別柔軟で透視的な感情の持主であった。イギリスの社会は周知のように、階級分化がすすんでいて、その社会独特の、平民的でありながら動かしがたい身分関係とそのしきたりにしばられている。市民としても文学者としてもいわば変り種であるローレンスは、そのようなイギリスの中流、上流社会に対して感じるすべての妥協しにくさを、肉体的な感覚の世界へとけこむことで、宇宙的な生命感の中へ意識をとけこませることで、ヒューマニティーの解放を見出そうとした。
 D・H・ローレンスの特殊な文学にあって、さほど重要とみられていないこの要素こそ、わたしたちにとって、見落されてはならない意味をふくんでいる。ローレンスの性を主題とした作品において、とざされている性――彼によればヒューマニティーの核をなす生命力――の解放者として登場してくるのは、いつもそのあいてである女性にくらべると、社会的地位の低い男性である。(チャタレイ夫人に対するメラーズ。)或はヨーロッパ文明にあきた女性に対して、より原始的生物のエネルギーにみちたメキシコ土人の男が出現する。(翼ある蛇)
 
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