傷だらけの足
――ふたたび純潔について――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)露通《るつう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)キリスト教会的[#「教会的」に傍点]偏見に対して、
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 こんにち、わたしたちがふたたび純潔ということについて語るとすれば、それは、どんな新しい人間精神の欲求からのことだろう。
 わたしたちの生活の下で、ある種の言葉は、この半世紀の間に、全く水火をくぐって、傷だらけにされて来た。たとえば愛という言葉。正義という言葉。そして純潔という言葉もその仲間にはいる。
 ヨーロッパの社会では第一次大戦のころ(一九一四―一八)から純潔に対する観念はすべての市民の日常生活の中で、はげしい試練をうけはじめた。イギリスはそれまで豊かだった中流層の経済力とともに安定していた清教徒風な、モラルのよりどころであった「純潔」の再検討によって。フランスはカソッリク的な純潔の現実的な定義に関して。
 ゴールスワアジーの小説に「聖者の道行」という小説がある。第一次大戦の前後に書かれた作品で、イギリスの人たちが、十九世紀か
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