て嫉妬したばかりでなく、一人の人間として、デスデモーナの浮薄さに自分の威厳を傷《きずつ》けられたことをも、たえがたく感じて遂にデスデモーナを殺し、自殺してしまう。オセロはシェークスピアの悲劇の中でも、イヤゴーの奸智、オセロの直情、デスデモーナの浄らかな愛情との点で、今日も活々とした感動を与える作品である。デスデモーナは一枚の見事なハンカチーフをもっていた。それはオセロがくれたもので、なくさないように、もしこれをなくしたら、あなたの愛も失われたと思うよ、という意味を云われて、愛のしるしとしておくられたものであった。イヤゴーの目がそのハンカチーフにひかれた。彼はもち前の巧みなやりかたで、そのハンカチーフをデスデモーナから盗んだ。そして、それはデスデモーナがそっとくれたもののように、周囲に思いこませた。
ハンカチーフを失ったデスデモーナの当惑と心配とはいじらしいくらいだのに、デスデモーナはその大切なハンカチーフがなくなったことについては、ひとこともオセロに話さず、さがすことに協力をもとめていない。
けれども、この悲劇をみているとわたしたち女性の胸は、デスデモーナへの同情にふるえるとともに
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