の悲劇の発端がある。
 こうして婦人のうけみな社会的立場をおのずから反映してうけみな対象として文学に導きいれられた婦人は、ルネッサンスの時代、文芸復興期になって、どういう変化をうけたろう。
 ルネッサンスは、最も早く商業が発達して市民階級の経済的・政治的実力のたかまったイタリーに十四世紀からおこりはじめた。そして、フランス、イギリス、ドイツと全ヨーロッパに拡がって、それまでの中世的な暗い王権と宗教との圧迫から、自由にのびのびと人間性を解放しようとする運動となり、社会生活と文化は全面的にヨーロッパの近代への扉をひらきはじめた時代であった。
 ルネッサンスの時代が進んでからは、婦人の社会的な生きかたもひろがりをもちはじめ、スペインのコルドヴァ大学などで婦人の学者も数人あらわれた。ルネッサンス時代の豊富さ、人間性の横溢を代表する芸術家の一人としてシェークスピアの戯曲が、いつも話題にのぼって来る。シェークスピアの戯曲の登場人物は実に多種多様で、社会の現実そのもののように豊富なのを特徴としている。人間の可憐さ、狡猾さ、奸智、無邪気さ、あらゆる強烈な欲望が描かれていて、そこに登場する婦人も、決して
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