史の第一ページから男によって描かれるものとしての婦人であり、創作の対象としてとりあげられている婦人である。このことは意味深い事実だと思う。世界文学の最も古典のものとしていつも語られるギリシアの詩人ホーマーの「イリアード」のなかに、この描かれるものとしての第一の女性が現われている。「イリアード」の中のヘレネは非常に美しく、美しい女性の典型として描かれている。ヘレネは美しさにおいては、ヴィナスのようにも美しかったのであろうが、社会的な存在としてホーマーが彼女を描いているところをみれば、美しきヘレネは当時の支配者たちの、闘争における一人の「かけもの」のような立場におかれている。世界文学にあらわれた第一の女はそのような争奪物としての位置であり「イリアード」が字にかかれる時代には、ギリシアにも、もう家長制度というものが出来上っていたことを示している。ギリシアは自由な国であるとされ、ギリシアの文化はヨーロッパ文明の泉となったけれども、その自由、その文化は奴隷制の上に立っていた。奴隷が畠を耕し織物を織り、家畜を飼って――生活に必要な労働を負担して、ギリシアの自由人の文化生活の可能をつくり出していた。
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