し、女の人がほんとに自分が好きでしているおしゃれの中に、自分から心持よさそうに動いているのを見るのは、随分好きです。お化粧や着物の撰び方などで急速に巧者になて来ています。この間うちパーマネントのことが大変やかましく云われていましたが、おしゃれもほんとうは、ぐっと進めば女の人の方からああ云う問題は自然解決してゆくものだし、当然そこを目指されていいものでしょう。似合う似合わぬから云っても、場所とか職業とか時代の生活の気分とか、そう云うものが敏感に女の感情の中で捉えられれば、まるで似合わないそしてそぐわないでこでこの装飾的な頭を誰れでも何処へでも持ち廻るという趣味はおかしなことに理解されて来るでしょう、着物とか髪形とか云うものは随分その人の人柄を細く照返しているから、女の人が自身からそれを自覚し自分の表現としておしゃれを掌握するようになることが大切だし、その中に女の独創性というものも、育つでしょう。今の若い女の人は自分の心持ちの張りというものと誇張というものの境をよく掴んでいないように思います。だから服飾として誇張されているものが、そのままほんとうの生々した女の心の張りから生じる線や色の取合せのニューアンスというものが壊される場合が比較的に多い。夜のお化粧とか朝のお化粧とかそう云う化粧読本の箇条としての一般論みたいなものは行き渡っているようだけれども、もっと自分に即して、自分の気持をとらえているという風のおしゃれは、まれに思えます、それは一応通ななり[#「なり」に傍点]、凝ったなり[#「なり」に傍点]、或はシークななりというのとは自ら違ってね。そう曰く因縁の難くない材料や気持の取合せでその人が語られているというのは、気持よいと思います。身なりのおしゃれも、追いつめて行くとありきたりのようですが結局心のおしゃれなんでしょうね。

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心のおしゃれと云われると、技巧している心の意味にも思われますが、まさかそうではないでしょうね。
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 それは真個《ほんと》のおしゃれが低い意味での技巧で追つかないと同じで、心のおしゃれも、生々した感受性や、感じたものを細やかにしっとりと味わって身につけてゆく力や、心の波を周囲への理解の中で而もたっぷり表現してゆく力や、そう云うものの磨かれてゆくことを意味していると思うのですがね。

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と仰言《おっしゃ》るのは、暮し方の心掛けですか。
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 そうでしょうねえ。私達の生きている心持ちと云うものは、面白い不思議なものね。自分をこめての現実をどこまで理解して行くかと云うこと、得て来たものでまた現実を更《か》えてゆくということは全く自分の努力なしにはあり得ないことですから、そう云う意味を生活というなら、毎日暮していても生活はしていないという生き方も実際にあるのです。映画一つ見ても見方はいろいろでしょう、せんだってうち、評判のよかった映画で「我が家の楽園」がありましたね、御覧になりましたか。あれはアメリカの映画の中で家庭というものが、これ迄になかった見方で扱われていた一つの例ではないでしょうか。これまで家庭が壊される悲劇をよく扱って来ているのだけれど、あれでは金はなくても銘々が好むところを発揮して営んでゆく家庭の楽園が、空想的にまで主張されており、従来の映画の中では、破壊者の役割に廻っていたお金持ちの事業家などでもあの映画の中では、その過程の楽園の喜びと機智に負けて譲歩するハピイエンドです。あれをどんな気持で皆さん御覧になったでしょう。
 ああ云う風に銘々の好むところで自由にやっていて而も団欒《だんらん》して行くということを、自分たちの家庭で実現出来ることとして楽しんで見たでしょうかそれとも全体として価のない作品だとお思いになったでしょうか。その二つの見方はどっちも、それだけの理由があると思います。他愛《たわい》のないという印象を与えたことも真《ほん》とうでしょう。何人かの女の人からそう云う批評を聞きました。その人たちはあれがアメリカで好評なのは何故でしょうと不満相に云いましたけれど、その何故でしょうというところに心を止めた問いを自分にも向けていた人はありませんでした。なんだ、つまらないという意味でも何故でしょうと云い棄ててしまうのと、一歩すすめてその先にあるものを解らして行きたいと思う心との間にある違いが、つまり心のおしゃれの可能である気持とない気持の違いだと思います。あの映画が現在のアメリカが経済的な行詰りを感じていながら、それを徹底的な方向で打開し得ず人々の心がまた現在自分たちの置かれている矛盾や困難を写実的にとりあげた作品を喜ばないような逃避的な気持にいる、その一面の現れがあの映画にでている訳でしょうが、判って見ればあの他愛
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