えたりしている。文学作品も多いけれども、はっきりそうとも云えない雑書風のものもまことに多い。
 数年来云われて来たインフレ出版の現象は、急速な社会全般の情勢のうつりかわりとともにこれ迄の文化伝統が変動しつつあることの一つの相貌として、云ってみればこれ迄出版業者にとって未開拓の地であった女性の世界へ次第に進出して来たのだと思える。
 豊田正子の「綴方教室」小川正子の「小島の春」などが、この波頭であった。これらの本は、文学では生産文学、素材主義の文学が現れて生活の実感のとぼしさで人々の心に飢渇を感じさせはじめた時、玄人のこしらえものよりも、素人の真実な生活からの記録がほしいという気持から、女子供の文章の真率の美がやや感傷的に評価されはじめたとき、あらわれて、出版部数の大さでも一つの記録をこしらえた本なのであった。
 今日では、同じ下らない本なら著書が若い女の方がいい、と何処かで誰かが云ってでもいるように、女性の著作が次から次へと出版される。本を出したら、という考えが若い女性の心に閃くとき、そこには万ガ[#「ガ」は小書き]一当ればという経済事情も伴って浮ぶようになって来ている。
 今日のこう
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