んな委員で「子供の家」の中の日常の仕事がはこばれているのです。
 さて、ゾロゾロと陽気な子供たちにまじって、食堂へ行きました。
 長い木のテーブルに、何人もかけられるような床几がおいてある。みんなは学級順に年下の者を前にして腰をかける。大きい角テーブルがあって、そこにアルミニュームの鉢、サジなどがキレイにうんと積み重ねてある。
 私たちは、一番年下の級の子供たちの間に挾って坐っている。子供たちがこっちをみる。私たちも子供たちをみる。そして互に笑い出す。――何のこだわりもない、実にいい心持です。
 やがて食事当番の子供が二人がかりで大きいお鍋を運んで来て、角テーブルの上へおきました。ポーポー湯気がたって、美味そうな匂いがする。スープです。
 別の当番の子供たちが、それを順ぐりにアルミの鉢に入れてくばる。
 そこへ、
「子供たち!」
と、さっきの白髪の女先生が入って来ました。
「一寸しずかにして下さい。そして、私のいうことをきいて下さい」
 大賑やかなガヤガヤがぴったりしずまった。
「誰か、きょう、地下室のガラス窓にボールをぶつけてこわした人があります」
 さては、お小言か。こわした者は出ていらっしゃいと、わたしどもが小学校でやられた時の通りに進むかと思っていると、ソヴェト同盟では、ちがう。先生はしずかに言葉をつづけ、
「もちろんそそうでこわしたのはわかっています。私はそれを信じていますよ。けれどもね、子供たち! あの破れたガラスは非常に厚いいいガラスで、特別地下室のために製造されたものだったんです、残念なことにそれがこわれた。
 わたしたちは新しいガラスを買わなければならないんですが、それは楽ではないんです。第一大変お金がかかる。それから、第二には、今ソヴェト同盟はみなさんの知っているとおり「五ヵ年計画」をやっています。モスクワに、いくつとなく新しい建物、工場が建って、そのどの建物にもガラスがどっさりいるんです。だからモスクワのガラスの生産力は、われわれの必要をやっと充しているので、一枚のああいう特別のガラスは今急に手に入らないのです。間にあわせに、わたし達はあすこへ普通のガラスを入れましょう。でもそれは薄いから、先よりもっとこわれ易いんです。どうぞみんなで気をつけて下さいね。地下室のガラスがこわれて雪や雨の水が入ると、家はひどくいたむんです。――わかりましたね?」
 すると、口をそろえてみんなが、
「わかりました!」
「わかったです!」
「わかりました!」
 またすぐ晴れ晴れとして、さア食事だ!
 スープの次には、ひき肉を入れて煮たジャガ薯が出ました。
 食べながらの話。――
「あなたがたピオニェールなの?」
「ええ。でもピオニェールでないのが一人いるわ」
「どうしたの?」
「ついこないだ『子供の家』へ来たばかりで、まだピオニェール分隊へ属さないんです」
「先生はアンナ・ドミトリエーヴナのほかに何人ですか?」
「もう一人です」
 するとわきから、ミソッ歯で金髪の少年が、
「おや、あなたわたし達のドゥーシャに会わなかったんですか」
「ドゥーシャは、このひとたちの来る前にもうリョーリャの見舞いに行ったんですヨ」
「リョーリャって誰です」
「やっぱり子供の家に住んでいる子供です。病気で今病院にいるんです」
 少し年上の、落着いた少年がつけ加えて説明しました。
「僕等は勉強は学校でするし、用事は委員会でやりますから、僅かの指導者だけで十分やって行けるんです」
 食事がすむと、いよいよ「子供の家」の見学です。さっきの三人の当番とわたし達、それに用のない子供がつながって二階へのぼり、
「ここが女の子の寝室です」
 ドアをあけられた室はカラリと広くて、日がさしている。窓のすぐそばに白樺の梢が見える。キチンと毛布でつつんだ寝台が四側に五つずつ並んでいる。
 もう一つそれより小さい女の子の寝台があって、その先が大広間です。ブルジョアが住んでいた時分はここでダンスでもやったのでしょう。今はレーニンの肖像が飾ってある。寄木の床です。
「集会はいつもここでやるんです」
 通りぬけた先が男の子たちの寝室です。こっちも仲々キチンと片づいています。が、面倒くさそうに突っこまれた枕が毛布の下から半分はみ出ている寝台もある。子供たちはそれを見ていろんな冗談を云い、笑う。
 ソヴェト同盟では、ほんとの男女共学です。学校の教室で机をならべて男の子と女の子とが一緒に勉強するばかりではない。寄宿舎だって部屋が違うだけで、一つ建物です。大学だって、そうです。だから、どんな男の子、女の子かということはよくお互にわかる。学校でだけスマしていたって、だらしない子なら、お互によくその欠点もわかる。男の子も女の子も一緒だから淋しくないし、お互によくなろうとするし、さすがソヴェト同
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