斯ういう気持
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)軈《やが》て
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)曝露して仕舞ったこ[#「こ」に「ママ」の注記]ということが、
−−
「――春になると埃っぽいな――今日風呂が立つかい」
「そうね、どうしようかと思ってるのよ、少し風が強いから」
「じゃあ一寸行って来よう」
「立ててもよくてよ」
「行って来る方が雑作ない」
愛が風呂場で石鹸箱をタウルに包んで居る間に、禎一は二階へ蟇口をとりに登った。彼は軈《やが》て、ドタドタ勢よく階子をかけ降りざま、玄関に出た。
「小銭がなあいよ」
愛は、
「偉い元気!」
と笑い乍ら、茶箪笥の横にあった筈の自分の銀貨入れをみつけた。覚え違いと見え、二三枚畳んで置いてあった新聞の間にも見当らない。下駄を穿き、
「まだかい」
とせき立てる。愛は戸棚の、小さい箱根細工の箱から、銀貨、白銅とりまぜて良人の拡げた掌の上にチリン、チリンと一つずつ落した。
「これがお風呂。これが三助。――これが――お土産」
禎一は、いい気持そうに髪の毛をしめらせ、程なく帰って来た
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