件で、むじつ[#「むじつ」に傍点]の村人のいくたりかが、ひどい目にあったということでもあって、それにこりたその村人は、自分たちは正直な働きてであり、実直な農民であることの証明に、指紋をとることを思いついたのだろうか。いずれにせよ、新しい人生のかどでに指紋とは、普通の生活をしているものの思いもつかないことだった。ぼんやりした気の毒さをもって、指紋をとられる花嫁花婿の写真を見た。
とんで十一月十三日の晩、わたしは、風邪ひきで床についているひとのわきで、東京新聞をひろげた。そして、そこに「全都民の指紋を登録」と三段ヌキ、トップに報道されている記事を見出した。福島のその村での結婚式の指紋とりは、偶然のことでなかった。
われわれ都民は、とられるもの[#「とられるもの」に傍点]には、もう誰しもたんのう[#「たんのう」に傍点]しきっている。とれるよりももっとどっさりの税をとられ、自殺する家族まで出るその金は公団その他にかすめとられ、もうとられるものはないと思っていたら、指紋があった。
新聞の記事は、まるで警官がもって歩く戸口調査簿のように、全都民の指紋は一般台帳にのせるのがあたりまえのようにか
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング