いい言葉づかいというのは、率直、簡明でそれが抜きさしならぬ感覚につかわれることで輝く美しさであると思う。ゴーリキイが、彼の文学論の中で言葉について興味あることをいっている。「すべて言葉というものは、行為や労働から生み出されたものである。従って、言語は諸事実の骨であり、筋肉であり神経であり、皮膚である。また従って、言語の正確、明瞭、単純ということは、人が事実を創造する諸過程や事実が人に及ぼす影響の諸過程を正しく明らかに表現するために、絶対的に必要なことである」と。
 言葉は先ず民衆の生きている現実によってつくられる。子供のための文学の仕事をする作家は、小さい民衆が自由奔放に造る言葉、表現に対して、ひろい感受性をもつと同時に、それらの言葉を芸術の素材とし、取捨し、高める必要がある。
 営々たる人類の進歩のための努力の結果は、将来、婦人の生活により多くの人間性と文化とを与え、子供らのための文学の創造者も輩出するであろう。一人の女として、「村の月夜」の作者が、永く困難な日本の文化の発展の消長と自身の努力とをはっきり結びつけて認識されることを期待する。そして、さらによい第二冊目への努力が、とりもなおさず、家庭における妻、母の境遇をましなものとし得る実践とし、同時に文学的生長の姿として現れることを楽しみに思うのである。
[#地付き]〔一九三七年三月〕



底本:「宮本百合子全集 第十一巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年1月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
   1952(昭和27)年10月発行
初出:「文学案内」
   1937(昭和12)年3月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年2月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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