の台石のまわりには、赤、紫、白、夏の草花が植えこまれている。一九一七年の「十月」ここで激しい市街戦があった。今年は、フント一ルーブルのトマト売が出ている。葡萄売も出ている。高いところでラジオ拡声ラッパが二十一度の明るい北方の夏空へギター合奏を流している。ソヴェト十三年の音と光だ。ずらりと並んだ乳母車のなかでは、いる、いる! それ等の音と光に向って薄桃色の臀、腹をむき出したおびただしい赤坊が眠ったり、唇を吸いこんだりしつつそろそろ未来の職業組合員手帳に向って息をしている。十九世紀の進化論者チミリャーゼフと夏の草花とに偏見なきソヴェトの赤坊の性を朗らかにむけながら。
並木通りには菩提樹《リーパ》の葉のかずほど赤坊がいた。いや、モスクワ市内の事務所役所のひける四時、四時後、九時頃まではよたよた歩きをする年頃からはじまって小学校ぐらいまでの幼童幼女で並木通りは祭だ。その間を赤衛兵が散歩する。ピオニェールが赤いネクタイをひらひらさせて通る。もちろんいかさま野師もその間を歩いては行くのだが、目につくのは並木のはてまで子供、子供だ。アルバートのゴーゴリ坐像の膝があいているのが不思議ぐらいな賑いであ
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