ブリ貰っている。
 ――本雇いにして貰えばいいのに。
 ――事務所で室女中にしてくれるかもしれないって云ってたが、どうなるか。
 ――どこでも今人が足りなくて騒いでるじゃないの、集団農場や国営農場へとられちゃって。職業紹介所は空っぽですよ。
 ――事務員は払底しているんです。
 ニッケル大湯沸のクランクからバケツへ熱湯を注ぎながら皿洗女は云った。
 ――臨時でもなんでも、こうして働ければ結構ですさ。働いていりゃ|並木通り《ブリヴァール》あるきをしないですむから……ねえ。
 そのほか、
 |並木通り《ブリヴァール》にはティモフェー・ティモフェーヴィッチという熊をつれた大道芸人がいた。
 三枚八十カペイキ、三十分の早とり写真屋。菩提樹《リーパ》の茂った樹かげに立てたペンキ画の背景の前の椅子で、赤い布《プラトーク》をかぶった女が格子縞のスカートの皺をひっぱっている。
 |並木通り《ブリヴァール》風景を眺めて昼間のベンチにいるのは9/10までいろんな髪と目の色をした女、及び籐の乳母車だった。
 ゲルツェン通りが並木通りと交叉するニキートスキー門のところにはチミリャーゼフの記念像がたっている。像
前へ 次へ
全36ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング