て、すき間風が入る。頭から白い毛糸肩掛をかぶった日本女が、唇の端から細いゴム管をたらしてねたまま横目で猫を見ていた。
寝台の横には楕円形のテーブルが置いてある。首がガクつくのをガーゼで巻いてある真鍮の呼鈴《ベル》、一緒に、アスパラガスに似た鉢植が緑の細かい葉をふっさり垂れていた。
日本でも猫が葉っぱをたべたりするのかしらん。――
床に黄色い透明な液体が底にたまった大コップがある。胆汁だ。斑猫《ぶちねこ》はそのコップをよけ、前肢をそろえ髭をあおむけ、そっと葉っぱを引っぱっては食っている。ふさふさした葉が揺れるだけだ。音もしない。日本女はもう二時間そうやって寝ている。
猫はとうとうテーブルへとびあがった。これは日本女を不安にした。鉢植えの植物には薄青い芽が萌えたばかりである。そのみずみずしいのを猫は食いたいんだ、きっと。
臥たまま手でテーブルをガタガタやった。退《の》かぬ。ちょうどいい工合に病室の扉があいた。
――ああ、ターニャ!
――まだやってらっしゃるんですか。もう直き御飯ですよ。
まぶしいような金髪で、赤い頬で、白衣をまくりあげた片腕いっぱいにうずたかくパンをかかえた
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