げてしまったけれども、俵に詰って梁から下っている三郎坊主は、藁一重外に、そんなことが起ったとは夢にも知らない。
暗闇の中に眼を光らせ、耳をすませて、突かれるのを待っている。こちらでは、和尚さんが、妙な顔をして、宙に下っている大俵を見た。彼には、一向訳が分らない。何のために俵が下っているのか、中がどんな様子になっているのか、人の好い和尚さんは少からず不気味だったに違いない。とう見、こう見していた彼は、やがて子供に返ったような顔附でチョイとその俵を持っていた杖で突いてみた。
すると、途方もなく大きな三郎坊主の声が、真面目くさって、
ボーン……
と、余韻まで引いて鳴り渡った。――これはその時代の彼の代表的逸話である。がとにかく、一年近く体は寺にいたが、頭は相変らず、同じように野や山や鐘楼のまわりをかけめぐっていた。気に入っていた和尚さんも、これでは仕方がないとでも思ったものか、彼の十三のとき、
「おぬしは、胆はあるようじゃ、が、文字の人ではないらしいで、実家へ戻れ。その方がええじゃろうよ」
と、宣告した。そのとき、彼は別に悲しくも恥しくもなかった。ちょうど、寺にもそろそろ飽きて来た時分
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