たまらなくなって「にわとり――」と叫んで草履のまま椽に飛び上った。茶の間で新聞をよんでいらっしゃったお祖母様はおどろいてとんで来て下さった。私が草履のまま椽に上って棒切をにぎって居るのでびっくりして「まあどうしたのだい、そんな風うして。汗をびっしょりかいてさあまあ」と云ってほしてあった手ぬぐいで私の汗をふいて下すった。にわとりはもうむこう向でしらんかおして土をつついて居る。
私は始から終りまでの事をお話するとお祖母様はあきれた顔をして「まあなんだねー、女のくせに、もう十一にもなってさあ昔なんかは十五にもなればもうお嫁に行ったもんだよ」と叱られた。
私は「へー」と云ったきりぼんやりして居るうち垣の外のにわとりはいいきみだと云うように「コケッコー」と云って一寸ふりかえってさっさとかえってしまった。私は尚ぼんやりしたままでにくらしいにわとりめとうしろ姿をにらめつけた。
これは三年昔の事である。
今年はごんぺいじいは去年の冬さむさまけから病気になって死に、あのにくいにわとりは犬とけんかしてくいころされたとの事、三年の年月は〔以下欠〕
底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版
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