のがきこえる。受話器をきっちり痛いほど耳へあてがってサイは待っていた。やがて、人の出た気配で、ぼんやりした声が自信なげに、
「――ハア」
と云うのが伝って来た。サイは爪立って送話口へのびあがった。
「ああ、もし、もし、勇ちゃん?」
間をおいて「――ハア」
「勇ちゃん! もっとおっきい声出しなさいよ。もし、もし。きこえる? 私よ……」
サイは、そういう間も時間がきれそうで気が気でない思いをしながら、ひろい東京のあっちの果から覚束なく響いて来る弟の声を一心にたぐりよせた。
底本:「宮本百合子全集 第五巻」新日本出版社
1979(昭和54)年12月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第五巻」河出書房
1951(昭和26)年5月発行
初出:「日本評論」
1940(昭和15)年4月号
入力:柴田卓治
校正:原田頌子
2002年5月4日作成
2003年7月13日修正
青空文庫作成ファイル:
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