しら。それででも来るのだろうか。もしや自分が日を間違えたかとハッとして、もう一遍ハガキを見た。どう見てもそこには、やっぱり三月二十五日とある。
サイはそのまま待つ気で暫く柱によりかかったが、何だか気が落付かなくて、厚司前垂れをしている貨物係の方へ近づいて行った。
「あの、五時三十四分につく上りもここに待っていていいんでしょうか」
「え?」
「そりゃ常磐線だ」
別の男が軍手の片手で、
「あっちのホームだ、あっち」
「ここを一旦出てね、右の方へあがるんですよ」
「あら! すみません」
周章《あわ》てて顔を赧くしながらサイは、改札にことわって教えられた段々を駈けあがった。どんなわかり難いところかと思ったが、段々をあがったらもうそこが常磐線の天井の低い待合室で、奥のベンチには将校マントの軍人だの、黒レースのショールをした女だのかなりの人が溜っている。同じホームの片側から千葉の方へゆく電車が出るので混雑がひどい。
こっちのホームは高みで一層吹きっさらしだが、いつの間にか大分白んで来て、いかにも風のある朝らしい橙色の東空に鼠色雲が叢《むら》だっている空の見晴しや、山の手電車がしっきりなく来
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