とぐらいたっぷり食べて、存分寝てみたい。その気持が自分でも名状出来ない思いとなって、若い体に脈うって涙がこぼれた。
 冬のころ、このことからサイは今の勤めをやめようかと思ったことがあった。先にいた勤人の家庭では食物と睡る時間はたっぷりあった。給金が十五円になれば、その方がいいぐらいであった。丁度忙しくなりかかった時で、サイがそれやこれやで余り浮かない顔をしていたら、飛田が目敏く、見とがめて、
「サイさん、どうした、この頃元気がないようだぜ」
 もしいやなら、このなかでほかの仕事にまわしてやってもいいと云った。サイは顔を赧らめた。
「私この仕事がいやなんじゃないんです」
 ここをやめても、すぐによそへ勤めることは許されないという条件もあるのであった。
 涙をこぼしたら、いくらか気分がすっとした。手紙の様子では勇吉もだんだん馴れて来ているらしい。でも、たった一ヵ月足らずのうちにゴム裏草履が三足にシャボンを二つもとられたとはどういうんだろう。田舎者だから揶揄《からか》われているのかしら。当惑しながら、黙っている勇吉の丸い顔がサイの目に浮ぶようである。
 蒲団をあげて積んだ上へ便箋を置いて手紙
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