言葉があり、よりつよい意味での要請――ことわりにくいほど命令のニュアンスがふくまれた要請の場合には、はっきりとトゥレヴォワーチというもう一つの言葉があることを、彼らが執拗であると同じ根気づよさで、率直にくりかえし主張してよかったのではないでしょうか。
ところが、彼は答えました。「要請というのは哲学で云えばカントの実践理性の要請という特別の言葉であって」云々と。粗暴な狼たちは、このアキレス腱めがけて、菅氏にとびかかり、かんでかんで、遂に彼の勇気を、かみちぎってしまいました。
不幸な菅氏は、その良心と正義感と、勇気にかかわらず、自身が客観的なよりどころとし得る単純明白なリアリティーの上に、しっかりと脚をかためて立つ、たたかいの技術を知っていませんでした。彼がたたかわなければならなかった、社会の現実と、彼の理性と真実の観念的な運営法との間に、ギャップがあったのでした。
菅氏の意味ふかい生のたたかいと死によって、ある人々は、長いものにはまかれろ、という屈従の倫理を思いおこしたかもしれません。けれども、より多くの人たちは、自身の良心と理性の問題として、それはいかに表現され、いかにたたかわ
前へ
次へ
全8ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング