クはアメリカ人である。中国の奥地へ入って、そこで生涯を終ったアメリカ宣教師「闘える使徒」として彼女に描かれている父の娘として、ずっと中国で成長し、アメリカの大学に教育され、中国農業問題研究者として権威をもっていた人の妻であった。
バックは中国の民衆生活の日常の現実に身をもってふれている。王龍とその妻阿蘭とが赤貧な農民としてあらあらしい自然と闘い、かつ社会の推移につれて偶然と努力との結果、次第に地方地主となりさらに押しすすむ時代の波にうたれて一族のある者は封建的な軍閥将軍に、ある者は近代中国資本主義の立役者になり、その孫のある者は急進的な道に進む王家の三代の歴史が、中国の複雑な社会の相貌を反映するものとして、強く描き出されているのである。
バックがアメリカ人であって、しかも中国の民衆が外国人の力に自分たちの生活をかきまわされることを欲してもいないし、必要ともしていない事情を、はっきり描き出しているところは注目に価する。中国に対する諸外国人の抱いている優先の偏見に向って、中国民衆のハートをひらいて見せ、そこにある声の響きをつたえようとしているのである。
「大地」からはじまる王家三代の物
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